「死刑こそが有効で重い処罰」は思い込み
「増補版ドキュメント死刑囚」篠田博之著
日本人の8割強は、「死刑もやむを得ない」と考える死刑容認派だといわれる。現在、死刑が確定していまだ刑が執行されない「確定死刑囚」は127人。彼らは何を考え、どういう日々を送っているのか。それを知る手だては少ない。彼らの面会や文通は著しく制限されているからだ。
著者である雑誌「創」の篠田編集長は、長年、受刑者たちと交流を続け、“塀の中から”の貴重な声を外に届ける活動をしてきた。本書で描かれているのは、世間の注目を集めた5つの殺人事件を起こし(たとされ)死刑囚となった5人の姿である。この中の宮崎勤、小林薫、宅間守、金川真大の死刑はすでに執行されており、驚くべきことに宮崎以外の3人は裁判で自ら極刑を望んだり控訴を取り下げたりしている。著者との面会や文通でも「『死刑』を望んでいる(小林)」「死刑になろうとなるまいと、死ぬまで殺し続けよう(金川)」と語る。また著者は、彼らの多くが家庭や社会から疎外されて育ち、「愛される」という経験を持たぬ人だということに気づく。
著者は煩悶する。「死刑を望んで殺人を犯した人間に死刑を宣告することが、本当に彼を処罰したことになるのか」「重罪を犯した人間がそれを『償う』とはどういうことなのか」
文庫版に新たに書き下ろされた終章では、ジャーナリズムの衰退とともに「社会への警告としての犯罪」という観点が失われつつあることへの危機感が語られる。「死刑こそが有効で重い処罰」との思い込みは社会の思考停止であり、司法やジャーナリズムの機能不全という著者の主張に全面的に同意する。そして、残念ながらとくにメディアの機能不全は進む一方。メディアが完全な“御用報道機関”になり果てるのを防ぎたい、と思う人にぜひ本書の一読をおすすめする。(筑摩書房 900円+税)