「火野正平 若くなるには、時間がかかる」火野正平著
酒を飲みながらハイライトをふかす火野正平に問いを投げかけると、飾らず、構えず、冗談を交えながら、独特の人生論が返ってくる。ちょっとしわがれたあの声を間近で聞いているような、親近感漂う聞き書き自叙伝である。
「恋の受信アンテナは感度抜群」「俺の犬はペットじゃない」「財布と腕時計は持たない」「食べ方が汚い子には惚れない」……。好きなものは、たばこ、酒、麻雀、草野球、ハードボイルドな男たち。スキャンダル多きモテ男は、66歳の今も「男の子」であり続ける。
家庭環境は少し変わっていた。物心ついたとき、母親はすでに再婚していた。居候気分で家は居心地が良くないし、悪い仲間もいたが、非行に走らなかったのは、スター子役の道が開けたからだ。母親のすすめで児童劇団に入り、ほどなく「少年探偵団」のレギュラーをつかんだ。子ども番組全盛だった当時、同時代の子役仲間には、渡辺篤史、ジュディ・オング、江木俊夫、太田博之などがいた。
自然の流れで役者になり、「必殺」シリーズや「長七郎江戸日記」で活躍。最近は自転車で旅する「にっぽん縦断 こころ旅」でタフぶりを発揮している。まだまだ現役。
私生活では、いつも複数の犬を飼っている。三十数年いっしょにいる「母ちゃん」との間に娘が2人。それでも結婚はしていない。毎年、夏の1カ月は家族とカウアイ島で過ごす。かといって、モテ男をリタイアしたわけではない。
恋の学び舎「火野学園」には、まだ卒業していない女の子もいるようだ。「俺のまねしたらアカンぞ、と」。自分でも決しておすすめできる生き方とは思っていない。でも、俺は俺。一億総風紀委員化したような息苦しい時代に、そんな男がカッコ良い。(講談社 1200円+税)