酒とクスリで自滅死した歌手 エイミー・ワインハウスの悲哀
弱冠19歳でアルバムデビューしたときから「まるで65歳のような圧倒的表現力」と周囲を驚かせたジャズ歌手エイミー・ワインハウス。幾人も男をかえ、薬におぼれながらも優れたアルバムを作り、ジャズ以外でヒットを飛ばし、しかし10年も持たずに酒とクスリで自滅死。その才能を惜しんで作られたのが現在公開中のドキュメンタリー「エイミー」だ。
ありきたりの音楽ドキュメンタリーと違うのは子ども時代からの家族ビデオや無名時代の仲間で撮った映像が多用されて親密感を醸す一方、彼女を食い物にした関係者までがそろってインタビューに登場すること。製作陣はそこまで綿密な取材を重ねたわけだが、その分、前半の成功物語と後半の転落話の落差も大きく、最初は単なる好奇心で見始めても、次第に友人の死を見るような胸の痛みを感じるだろう。
離婚して去った父への思慕と弱い母への失望。実はこの父親こそが後年の彼女を食い物にした張本人のひとりなのだが、彼女の純な思いは、やがて自堕落な男たちへの心的依存を招き、稀有な才能を滅ぼす原因になる。
「典型的な例です。一緒にドラッグをやってあぶく銭を得たやつらが、金を失う恐れから彼女の回復を望まなかったのですよ」というドラッグカウンセラーの言葉が鋭い。
写真家・浅田政志は“自分の家族写真で笑いをとる”という奇妙な作風の写真集「浅田家」(赤々舎 2600円+税)で高く評価された写真家。エイミーにせめてこの家族のつながりの一片でも得る可能性があったなら、と思うのは、ばかげているだろうか。〈生井英考〉