「湾生回家」 「よそ者」意識に悩む台湾生まれの日本人
蔡英文政権が誕生して、親日ブームといわれる台湾。いや、実際は親日台湾を願う日本でのブームという側面もあるようなのだが、その台湾で製作された興味深いドキュメンタリー映画が今週末封切られる。「湾生回家」。台湾生まれの日本人(湾生)が、故郷・台湾に帰る(回家)、という意味である。
台湾のいわゆる日帝支配は日清戦争後の1895年から敗戦の1945年までの50年間。その間、現地で生まれた日本人子弟はおよそ20万人。その全てが70歳以上、台湾の記憶を鮮明に覚えている人となると実質的に80代だ。映画はこれら湾生たちに個別に接し、その声と記憶をじかに写し取りながら日台の関わりをたどってゆく。
引き揚げてからの70年間ずっと、日本で「よそ者」意識を抱えてきたという告白が一人ではないのに驚かされる。日本での生活が何倍も長くなっても、死んで土に返るときは故郷の台湾でと言い、それをまた台湾の人々が笑顔で受け入れるのである。植民地官僚のお嬢さまだったらしいある女性が言う、「この気持ちにずっと悩んでいたら、五木寛之の本を読んで『異邦人』という言葉に出会って、あ、これだ、私は異邦人なんだと思いました」。
そうだ、そうだったと五木氏の懐かしいエッセー集「深夜の自画像」などを思い出す。朝鮮からの引き揚げの体験とその後の「よそ者」意識の葛藤。エッセーの巧者として知られた五木氏の旧著復刊を願いながら、異邦人感覚が色濃くにじみ出ているエッセー「僕はこうして作家になった―デビューのころ―」(幻冬舎 476円+税)を挙げておきたい。
〈生井英考〉