「作る!超リアルなジオラマ」情景師アラーキー著
箱庭のような狭い空間に本物そっくりの情景を作り出すジオラマ。プラモデル作りに夢中になったことがある男性なら、誰もが憧れ、挑戦をしたことがあるのではなかろうか。本書は、ジオラマ制作の第一人者が、自作を紹介しながら、その作り方・テクニックを惜しげもなく教えてくれるビジュアルブック。
何はともあれ、ページを開いてみてほしい。まず目に飛び込んでくるのは、往年の名車フォルクスワーゲン「ビートル」が、サビついて朽ち果てようとしている姿だ。コンセプトは、村で初めての外国車だったその車が、国道沿いの農家の納屋の前で、東京に出て行ったまま戻らないご主人さまである農家の跡取り息子を待っているという設定なのだとか。
サビに侵食され、ペンキがはがれた車のボディー、タイヤホイールの穴やエンジンルームから飛び出す草、納屋に取り付けられたホーロー看板、そして軒下のツバメの巣など。直径わずか21.5センチの戦前のケーキ型を土台にした小さなスペースに作り込まれた情景なのだが、室外で本当の畑を借景に撮影すれば、そこには懐かしささえ感じるような光景が出現する。
別のページでは、それぞれのパーツの素材や、板塀の経年劣化や、車のサビ表現といった具体的なテクニックなど制作過程を含めてすべて詳述。東芝の元社員で洗濯機のデザインを担当していたという著者ゆえに、ホーロー看板が東芝の洗濯機の宣伝用看板になっているなど、細部にまで遊び心とこだわりが詰まっているのがよく分かる。
続いて登場するのは、木造漁船を陸揚げ・展示する北海道・紋別の公園の風景を再現した作品。ネットで画像検索中に、たまたま目に留まった風景に魅せられ作ったという作品だが、ビートルが既存のプラモデルを使用しているのに対し、こちらの主役の木造船は紙で無から制作している。朽ちた木の表層のめくれた質感を出すには紙がぴったりなのだそうだ。
その他、熊本に現存する石橋を、荷台に収穫したばかりのスイカをのせた農家のトラックが走る夏の一景を表現した「西瓜の夏」、買い物帰りの母子がオート三輪の焼き芋屋を呼び止める「やきいも」、見る方向で表情が変わる「トタン壁の造船所」など、一つ一つの光景から物語が立ち上ってくる渾身のジオラマ作品8景を教材に、道具類などの具体的な解説、作品の構想の仕方や情報収集など制作前の準備、そして魅力を最大限に引き出す撮影術やSNSを利用して作品を多くの人に見てもらう方法まで。制作の工程をすべて網羅。
ジオラマ作りはハードルが高いという人も、職人技ジオラマ制作の舞台裏を垣間見るだけで楽しくなるはず。(誠文堂新光社 1800円+税)