読んでおいしい最新グルメ文庫はこれだ!
「その手をにぎりたい」柚木麻子著
1983年6月、仕事を辞め、栃木の実家に帰ることを決断した24歳の青子は、社長の近藤に送別会として銀座の「すし静」に連れて行ってもらう。同店は座るだけで3万円以上するという高級寿司店だ。近藤が注文したヅケのにぎりを職人の一ノ瀬が手のひらにのせて差し出す。職人の手からじかに受け取るのがこの店の流儀だった。
そのにぎりを口にした青子は、これまで口にしたことのないおいしさに呆然となる。一ノ瀬のにぎった寿司をもう一度食べたいと痛切に感じた青子は、東京に残ると決め、不動産会社に転職。自分のお金で、数カ月に一度、すし静に通い始める。
一ノ瀬に密かに思いを寄せながら、バブルの熱狂と崩壊に翻弄される青子の10年を描く長編小説。(小学館 570円)