厳しい現実の中で果てしない夢とどう向き合うか
「クランボルツに学ぶ夢のあきらめ方」海老原嗣生著/星海社新書/920円+税
雇用ジャーナリストによる書。世の中の「成功者」がいかに少ない存在で、成功につながるための「夢」というものが果てしなく遠いかを説く。基本的には、厳しい現実を突きつけられるものの、最終的には「なんとかする」ための解説も記される。
「お笑いビッグ4」たる、ビートたけし、タモリ、明石家さんま、松本人志は「夢はかなわない」といった発言をする一方、堀江貴文氏やスティーブ・ジョブズ氏は「好きなことに徹底的にこだわるべき」と発言する。
この真逆の意見がある厄介なる存在である「夢」をいかにして掴むか、ないしはあきらめるかを具体例とともに紹介する。
「夢」とは「こういった存在になっていたい」という願望ではあるが、果たしてその願望は達成されるのか。本書で象徴的なのは、お笑い芸人・博多大吉と、「一発屋」扱いされる日本エレキテル連合の対比である。
売れっ子芸人になるには、「学年に1人はいるオモロい奴」が発端となる。だが、そのうちの99%が芸人を目指さない。「行動しないと夢は叶わない」という単純な事実をここで示す。この段階で、売れっ子芸人になる可能性は1%だ。さらに、「辛さに耐える」ことができるのが1割で、ここで一回売れた場合に「仕事を選ぶ 文句を言う」(日エ連)か、「やってみようと前向きに受け入れる」(博多大吉)か。大成功を生むか、「普通の人」になるのかの差になるという。
本書はキャリア論の古典ジョン・D・クランボルツ氏の理論に基づいている。同氏が説くのは「夢はあきらめると、けっこう叶う」という一見矛盾した結論だ。クランボルツ理論を咀嚼した海老原氏はこう説く。
〈たとえば20歳とか25歳のあなたが「私の人生はこうあるべき」と決めてしまうということは、20歳や25歳のあなたが、その他のあなたの支配者になったのと同じことでしょう。40歳や50歳のあなたから「もっといろいろあったのに」と文句をいわれてしまうかもしれません。だから、若いときにむやみに人生を決めることはない、ということ。それが、クランボルツ理論の、まずは心に置くべきポイントです。〉
「夢」というと、若者だけが持つ特権だと感じられるかもしれないが、「こんな生活をしたいな」という願望であろうとも「夢」の一種である。そのために必要なのは自身を引き上げてくれる他者の存在に他ならない、そんな基礎を改めて本書は教えてくれる。
★★★(選者・中川淳一郎)