社会主義リアリズムの中で苦闘した前衛画家

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 20世紀初めの共産主義運動は政治的には前衛を自負したが、文化的には保守の極みだった。いわゆる社会主義リアリズム一辺倒で、労働者の英雄的な姿を描かない芸術はすべて退廃とみなすような、愚にもつかない旧習が革命家を名乗る政治屋たちの頭に根を張っていた。そんな時代のポーランドで苦闘した実在の前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキを描く映画が、いま都内で公開中のアンジェイ・ワイダ監督「残像」である。

 ワイダはその昔の「灰とダイヤモンド」が余りに有名なためにかえって評価されそこなったようにも思えるが、昨年秋、90歳で亡くなるまで生涯現役の物語映画作家として一線で活躍しつづけた。本作でも美術の前衛に無関心な政治権力との闘いを(ただし映画自体は真正面からのリアリズムで)描き、彼の本質が前衛というよりむしろ職人気質だったことをはからずも伝えている。情熱的な教師として若い画学生たちに接するストゥシェミンスキの姿がワイダの自画像だったのではないかと感じられるのだ。映画のせりふにもあるように「残像」は、まぶたを閉じたときに網膜に残る幻の像(錯像)のこと。

 ウォルター・リップマン「世論 上・下」(岩波文庫 上740円 下900円)は米国の有名なジャーナリストの書で、ステレオタイプ(つまり紋切り型の予断)を通してしか世の実相を見ようとしない現代の大衆を鋭く批判した最初のメディア論でもあった。洞窟の壁に映った影絵を通してしか真実に触れることのできない人間の愚かさ。それを思い知るところから初めて真実への道が開ける。 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

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