「チャップリン暗殺指令」土橋章宏著
陸軍士官学校生の津島新吉は、貧しさ故に母を病気で死なせてしまったことを深く悔いていた。折しも昭和維新を標榜する海軍将校らは、私腹を肥やし政争に明け暮れる政財界を討つべくクーデターを計画。
それに共鳴した新吉も彼らに加わるが、新吉が命じられたのは喜劇王チャプリンの暗殺だった。チャプリンは、映画「街の灯」のキャンペーンのため1932年5月14日に来日し、翌日、犬養毅首相との会見を予定していた。
チャプリンを知るために彼の映画を見に銀座へ出かけた新吉は、チャプリンに弟子入りをするという俳優、柳浩介と知り合い、彼の手づるでチャプリンに近づくことに成功。
しかし実際のチャプリンは、「西洋文化の退廃の象徴」と聞かされていたのとは大違いで、貧しく弱い者に優しい好人物だった。己の使命と板挟みとなる新吉だが……。
史実をもとに、チャプリンの来日秘話を、エンターテインメントに仕立てた、「超高速!参勤交代」の著者の最新作。(文藝春秋 1400円+税)