「ニッポン とっておきの島風景」箭内博行著
これまで国内の300以上の島々を訪ね歩いてきたという著者による写真集。日本とは思えないような「珊瑚礁の青い海、固有の動植物を育む森、大自然と共に生きる人々の暮らし」――それぞれが独自の魅力を発しながらも、日本の原風景を今も色濃く残し続けている島々の四季を美しい写真で紹介する。
吸い込まれるような深い藍色の絶海に浮かぶ「薩摩硫黄島」(鹿児島)は火山島。まるで漫画の中に出てくる原始時代の島のように、もくもくと火口から白い煙を吐き続けている。上空から見ると、とても人が暮らしているようには見えないが、その麓では人々の暮らしが営々と続いている。この特異な景観が旅情を誘い、隠れた人気の離島なのだそうだ。
長崎県の五島列島の久賀島や奈留島、福江島などの島々には、木造教会や古いカトリック墓碑(写真①)などが残り、キリシタン弾圧の過酷な歴史を思い出させる。
一方、「屋久島」(鹿児島)の深い森の中に突如現れる巨大な花崗岩の一枚岩から流れ落ちる「千尋の滝」や、高知県「沖の島」の荒倉神社の鎮守の森にそびえる島の主のような「アコウの巨木」、鏡面のような水面に周囲の山々の風景を映し出す三宅島(東京都)の「大路池」、どこまでも広がる砂浜に転がる岩が独特な景観をつくり出す宮古諸島「伊良部島」(沖縄県)の「佐和田の浜」(写真②)など、人の往来が少ない島だからこそ残る豊かな自然がそこにはある。
南国さながらのヨロンブルーの海に干潮になると現れる白砂の島「百合ケ浜」(鹿児島県与論島)や、エメラルドグリーンの海に囲まれた砂州の島「はての浜」(沖縄県久米島)など、自然の妙がつくり出す今にも消えそうな島をはじめ、トビシマカンゾウの黄色い花が埋め尽くす佐渡島(新潟県)の大野亀、テンニンギクが群生する「小宝島」(鹿児島県トカラ列島)など、楽園や天国もかくやと思わせる島々がページをめくるごとに目に飛び込んでくる。
さらに、荒波で定期船が接岸できないため、人も荷物も常にクレーンで島に上陸しなければならない北大東島(沖縄県)や、別荘地と化した「鴻島」(岡山県日生諸島)、島全体が亜鉛製錬所となっている広島県の「契島」、過疎が進み今は一家族だけが暮らす「水納島」(沖縄県宮古諸島)、そして旧日本軍の要塞跡が今も残り「ラピュタの島」とも呼ばれる「友ケ島」(和歌山県=写真③)など、120もの島々のさまざまな表情を切り取る。
島に流れる豊かな時間までを写真に閉じ込めた写真集は、眺めているだけで心が満たされてくる。
しかし、人が住む島は日本に400余島あるそうだが、ご多分に漏れず少子高齢化にともない、その数は急速に減少しつつあり、貴重な島文化の存続も危機にさらされているという。
日本の美しさ、奥深さを再発見させてくれるお薦め本。
(パイ インターナショナル 1900円+税)