「東の果て、夜」 へビル・ビバリー著 熊谷千寿訳
ロードノベルである。語り手は15歳の少年イースト。向かうのは2000マイルも離れたウィスコンシン。旅に同行するのは、13歳の弟タイと、年上のマイケルとウォルター。このロードノベルが異色なのは、旅の目的が殺人であることだ。イーストの叔父フィンがギャング組織のボスで、組織に不利な証言をする男の抹殺を、彼らに命じるのである。さらにその殺人を実行するのが組織の殺し屋タイ。なんと13歳の弟が冷酷な殺人者であるのだ。
したがって、のどかな旅ではない。年上のマイケルが運転する車で彼らは目的地に向かうのだが、タイは後部座席でずっとゲームをしているだけで、誰とも会話せず、打ち解けようとはしない。彼は兄のイーストとも距離を持ち、というよりも、この兄弟の仲は良くない。いちばん年長のマイケルは、途中でカジノに寄ろうとしたり、女の子をナンパしようとしたりする。つまり、緊張感のかけらもない。そういう一行であるから、トラブルが発生するのは時間の問題といっていい。
具体的にどんなトラブルが発生するかは、本書をお読みいただきたい。ここで紹介することが出来るのは、この旅で15歳のイーストがすこしずつ成長していくことだ。その意味で、本書はロードノベルであると同時に、一人の少年の内面の成長を描くビルドゥングスロマンだ。余韻たっぷりのラストが味わい深い。いい小説だ。
(早川書房 920円+税)