「にっぽんスズメ散歩」ポンプラボ編、中野さとる他写真
あまりにも身近過ぎて、その魅力に気がつかないということが、よくある。日本各地に暮らす5人の野鳥写真家たちの作品を編んだ写真集である本書を開くと、スズメもそのひとつだと気づくに違いない。実は、今、スズメが静かなブームとなっているらしい。写真集が出されたり、SNSで投稿された写真が人気を呼んだりしているという。
見慣れているがゆえに半信半疑でページを開いてみたら、巣立ったばかりの嘴がまだ黄色い子スズメのつぶらな瞳と目が合ってしまい、まず心をわし掴みにされる。巣立ちしたばかりの子スズメたちは、まだ親からエサをもらっている。その姿を撮影した片柳弘史氏は、子スズメの口に餌を運ぶ親スズメの目に愛が宿っているように思え、感動したと話す。
山口県宇部市の教会で司祭を務める片柳氏は、当初は珍しい鳥を追いかけて撮影していたが、ある冬の朝、羽毛をいっぱいに膨らませて丸くなった「ふくら雀」(写真①)に出会い、身近なスズメの魅力に気がついたそうだ。スズメは一年を通じてその姿を追い続けることができるが、撮っていて飽きることがないという。
一方、ハヤブサを被写体にした作品で知られる北海道在住の写真家・熊谷勝氏は、江戸時代の絵師・長沢芦雪が描いた「竹雀図」に触発され、「自分もこんなスズメたちの姿を撮影したい」と心から思い、絵画(水墨画)的表現に取り組む。雪と笹を背景に凜とたたずむスズメや、春の日を浴びて花が咲く木の枝先で毛づくろいをするスズメ(写真②)など、計算し尽くされた構図の作品は、まさに絵画そのもの。
かと思えば、愛知県在住の中野さとる氏の作品は、群れで暮らすスズメたちの日常を捉える。
興味をひく何かがあるのだろうか、上を向いた5羽のスズメ、そのうちの2羽は耐えきれずにその場でジャンプしている。他にも、喧嘩だろうか、嘴を武器に絡み合う2羽の間に仲裁するように割り込むスズメとその3羽を我関せずとばかりに無視するスズメによるワンシーン(写真③)など、時にユーモラスにも見える彼らの集団生活をのぞき見る。
建設資材のパイプを巣に使うなど、人間の暮らしのすぐそばで生きるスズメだが、警戒心が強く安易に人を近づけず、その上、動きが素早いので撮影はなかなか難しい。しかし、しぐさや表情が豊かで、撮るほどにその魅力に引き込まれていくそうだ。そんな5人5様のスズメ写真に心がほどける。
作品と共に、写真家たちのスズメに寄せる思いや撮影秘話を紹介。さらに、スズメ愛好家でありアマチュア研究家でもある田口文男氏による、スズメをモチーフにしたお菓子やお酒のコレクション、スズメを主人公にした人気漫画「きょうのスー」の作者マツダユカ氏の描き下ろしコミックなども加わり、スズメ尽くしの一冊。読んだその日から、町中でスズメを見る目が変わってしまうことだろう。
(カンゼン 1400円+税)