著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

原発1号機の冷却失敗は氷山の一角

公開日: 更新日:

「福島第一原発 1号機冷却『失敗の本質』」 NHKスペシャル「メルトダウン」取材班 講談社 840円+税

 2011年3月11日の事故発生から福島第1原発の免震重要棟に陣取り、死を覚悟しつつ事故を収束させた故吉田昌郎所長は、海外からも「フクシマ50人のリーダー」と称えられたヒーローとなった。想定外の全電源喪失で大混乱の中、1号機の炉心冷却のための海水注入を東電本店からやめるよう指示されたが、吉田所長が一芝居打って継続した事実はヒーロー伝説のひとつだ。

 ところが事故から5年半も経って、吉田所長が英断した海水注入が実はほとんど炉心に届いていなかったことが分かった。この失敗が、その後に続く世界史に例を見ない連鎖的なメルトダウンへの岐路となった。

 なぜ1号機の冷却に失敗したのか。本書は、その「失敗の本質」を推理小説を読み解くようにひとつひとつえぐり出していく。

 直接的な原因は、最後の冷却手段であった非常用復水器(イソコン)を活用できなかったことだが、本書はその背景にあった経験不足を指摘する。米国では5年に1度はイソコンを実働させる訓練が義務だが、日本の規制ではその義務が抜け落ち、運転員は40年もの間、一度も訓練していなかったのだ。これでは活用できるはずがない。

 なぜ日本の規制から義務が抜け落ちたのか。日本の規制当局には、その経緯や理由の記録もないというお粗末ぶりも明らかにする。

 本書の一部はNHKスペシャルのシリーズで報道され注目を集めた。人工知能も活用した分析など一報道機関としては、調査報道を超えて研究としても称賛すべき成果だ。とはいえ「失敗の本質」の全貌からは「氷山の一角」に過ぎない。本来こうした調査研究は、世界の英知を集めて行うべきものだ。それを欠いたまま強行されつつある原発再稼働は、「新たな失敗」を積み重ねている。

 2011年のあの日あのときのことを、読者諸兄の多くは鮮明に記憶しているはずだ。それはいまだに「歴史」ではなく、現在進行形の「事故」であることを本書は私たちに突き付けている。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭