「ワン・プラス・ワン」ジョジョ・モイーズ著 最所篤子訳
ノーマンがかわいい! トーマス家で飼われている老犬だが、毛むくじゃらで、いつもよだれを垂らし、おならが異様に臭い大型犬である。一緒に車に乗ったとき、あまりに臭いので「死んじゃう!」とタンジーが叫ぶと、彼女の顔を悲しそうな目で見たりするから、かわいい。このノーマンはラスト近くで大活躍するから、けっして「巨大エサ食いウンコ製造マシーン」(ジェス談)ではないことは、ノーマンの名誉のために書いておきたい。
本書は、この大型犬ノーマンを連れ、27歳のシングルマザー、ジェスと、その娘タンジー(数学の天才少女10歳)、さらに別居中の夫の前妻の子ニッキー(メーク好き少年16歳)、そして逮捕寸前のIT長者エド、この4人プラス1匹が、はるかスコットランドの数学オリンピック会場をめざして英国縦断の旅に出る話である。
この作家は「ミー・ビフォア・ユー」という小説でわが国に初紹介され、本書が2作目。前著は尊厳死をテーマにした長編だったが(こちらもたっぷりと読ませる傑作だった)、今回は一転して、笑いあり涙ありの痛快読み物で、読み始めるとやめられなくなる。
人は過ちを犯す生き物ではあるけれど、人生をやり直すことは出来る。愛するものがいて、信じられる未来があるならば、いつでも立ち直ることが出来る――読み終えると、そういう確信がむくむくと湧いてくる。これはそういう小説だ。
(小学館 1030円+税)