「室町繚乱」阿部暁子著
何げなく読み始めたらやめられなくなった。13歳の少女透子が髪を切って少年の格好になり、乳母と2人で敵地に乗り込んでいくというストーリーは、特に目新しいものではない。しかし、この長編にどんどん引き込まれていく。それは、出てくる人物がみな生き生きとしているからだ。
たとえば透子は、京に入った途端、人買いにつかまってしまうのだが、それを助けるのが猿楽師の少年鬼夜叉と、若き将軍足利義満。透子は南朝の帝の妹なので、義満は仇敵になる。鬼夜叉も義満の庇護のもとにいるのだから、本来なら透子の敵方の一員になるのだが、何かあるたびにこの少年は透子を助けてくれる。
義満ですら単純な悪党ではなく、しかしリアルな政治状況を背景にして彫りの深い男として描かれている。まだまだ脇役もいるのだが(鬼夜叉の弟四郎がたとえようもなくかわいい!)、あとは省略。
透子がどういうわけか、義満の館に住むことになるというストーリーの展開と、南北朝の時代という複雑な物語の背景が徐々に立ち上がってくることと、怒涛のような激しい局面になる後半の面白さを指摘するにとどめておく。
著者は年少読者向けの小説を書いてきた人で、一般書はこれが初めてのようだが、この作家の作品をもっと読みたいという気持ちがこみあげてくる。うまいうまい。(集英社 660円+税)