世界的発見のきっかけは「気晴らし」から
「世界を変えた6つの『気晴らし』の物語 新・人類進化史」スティーブン・ジョンソン著 大田直子訳/朝日新聞出版 2100円+税
民俗学者の柳田国男は、「木綿以前の事」の中で、木綿が日本人の生活にもたらした大きな変化を論じたが、木綿の普及は、日本に限らず世界史的な出来事であったことが本書によって知ることができる。
17世紀、「木綿ビッグバン」ともいうべき木綿の大流行がイギリスを中心とするヨーロッパで起こった。そのブームを牽引したのは、それまでウールやリネンといった厚手でチクチクする服を着ていた女性たちで、通気性が良くサラサラとした肌触りの木綿は、女性たちに欠かせないアイテムになったのである。
木綿に魅せられた「サラサ・マダム」たちは、やがてウインドーショッピングという形式を生み出し、消費社会という新しい時代の幕開けを準備することになる。
著者は、顕花植物の花蜜の獲得とハチドリのホバリング能力とがその進化の過程において相互に関係し合っていることから、ある分野のイノベーションが関係ないように思える分野で動きの変化を起こすプロセスを「ハチドリ効果」と名付けた。本書には、木綿の流行とショッピングセンター、自動演奏装置とコンピューター、コショウとグローバリズム、ファンタスマゴリ(幻灯機を用いた幽霊ショー)とディズニーアニメ、チェスと人工知能、居酒屋とレジャーランドという6つのハチドリ効果の具体例が取り上げられている。
そこに共通しているのは、いずれもその発端は単なる気晴らしとして考えられたものであるということ。それがいつの間にか思いもよらぬ現象を生み出し、ひいては世界的な発明・出来事へとつながっていく。
そのダイナミックな経緯を、多様な文献を駆使して物語っていく。なかには牽強付会と思える部分もなくはないが、それこそ気晴らしのための読み物としては大いに楽しめ、無駄な(?)知識もたっぷり吸収できる。これも本を読む重要な効用だろう。
<狸>