「雲と鉛筆」吉田篤弘著
休日、「ぼく」は、遠い街で何冊かの本と、あまり甘くないお菓子、珍しい文房具を買って帰宅した。ぼくは、しばらくは遠い街に出かけるのを控え、自室の屋根裏部屋にこもって、これまで考えてきたことの続きを青いノートに書くつもりだ。屋根裏部屋には小さな本棚と古い寝台、子供用の机と椅子が1組ある。屋根裏部屋がある建物は、昔、新聞を刷るための工場だった。鉛筆工場で働くぼくは、ここで子供のために書かれた本を読みながら、たくさんのことを考え、時には回り道をいくつも重ねながら「本当のこと」を探してきた。ぼくはいま「時間」について書かれた本を読んでいる。(「遠い街から帰ってきた夜」)
ほかに「バリカンとジュットク」など全3編を収録した不思議な味わいの連作小説集。
(筑摩書房 680円+税)