「バットランド」山田正紀著
「おれ」はクリーニング屋の鏡を見て驚いた。自分の実感としては30代半ばなのに、映っているのは70代のジジイだ。しかもおれは自分の名前さえわからない。店に入ってきた女が、それは鏡に映る自分の姿を認識できない認知症の症状だと言った。女は患者を連れ戻しにきた病院の職員を装って、若い男と2人でおれを店から連れだし、男が「彼はどこにいるんですか」とおれに聞いた。おれは「どの彼?」と聞いた。そのとき、後ろからつけてきたワゴン車に拉致された。ワゴン車の男は「おまえは22番だ」と言い、「おまえ、もしかしたらもとにもどっちゃったんじゃないの」と言った。
脳に人工海馬を埋め込まれた認知症の老詐欺師をめぐる表題作ほか、4編のSF短編集。
(河出書房新社 1800円+税)