「赤い靴」大山淳子著著
不思議な小説だ。物語がどこへ向かうのか、途中まではわからないのだ。だから、とても新鮮であった。
7歳の誕生日の夜、母親が何者かに目の前で惨殺される。逃げ出した葵は、山中に住む老人に助けられ、犬と一緒に生活することになる。山中の生活とはいっても、老人はたくさんの本を所持しているので(その小屋は図書室と呼ばれている)、それらの書物から語学をはじめとしてあらゆることを学んでいく。そういう生活をなんと10年も続けていくのだ。
葵が17歳になったとき、老人は病に倒れる。葵に出会う前、孫娘と一緒に山中で暮らしていたこと。その孫娘はずいぶん前に亡くなったが、死亡届を出していないこと。だから君は山を下りて、孫娘の戸籍を使いなさい。孫娘が生きていたと知れば家族も喜ぶだろう。そう言い残して老人は息を引き取る。こうして葵は山を下りていく。
この先にどういう物語が待っているのかは本書で確認されたい。それをここに書いてしまっては読書の興をそいでしまうだろう。全体の構図が見渡せるのは4分の3のところ。そこでようやく納得するが、それまでは、何なんだこれは、と思いながら読み進んでいく。こういう読書も久々であった。
老人の孫娘になりすますなんてことが簡単に出来るだろうか、ということを含めて、最後はやや強引だが、物語を貫く緊迫感にただただ圧倒されるのである。
(ポプラ社 1700円+税)