「鯖」赤松利市著
異色の漁師小説である。一本釣りの漁師たち5人組がいる。35歳の新一を除けば、あとの4人は50代半ばから60代半ば。みな、ワケありの男たちだ。
その5人が根城にしているのは日本海に浮かぶ孤島。この島から漁に出て、時代遅れの一本釣りで鯖を仕留め、浜までの3時間で塩漬け、さらには、ぬか漬けでヘシコを作る。そんな日々を送っている男たちに、明るい未来はなく、今日をただただ生きている。20年も経てばこの船団で残るのは自分だけだ、と新一は考えている。
そこに現れるのが、割烹の女将、恵子。もっと魚を持ってくればもっと買う、と怪しげに近づいてくる。船頭の権座65歳は悪い気がしない。それだけならまだよかったが、次に登場してくるのは、巨額な資産を持つIT会社社長のドラゴン村越と、そのパートナーのアンジェラ・リン。彼らは、もっと人を雇い、鯖(ヘシコ)を中国に売りさばくビジネスを考えて、この荒くれ漁師軍団に近づいてくる。やり方ひとつで漁業は儲かるビジネスなのだ。かくて不穏な空気が漂って、風雲急を告げてくる。
著者の赤松利市は、第1回の大藪春彦新人賞を受賞した人で、本書はその長編第1作(受賞作ではない)。「62歳 住所不定 無職 平成最後の大型新人 鮮烈なるデビュー」という帯の惹句が強い印象を残す。造本装丁も素晴らしい。
(徳間書店 1700円+税)