「新版 縄文美術館」小川忠博写真/小野正文、堤隆監修
私たちの祖先は、氷河期だった約4万年前に朝鮮半島から九州に上陸し、獲物を追って移動を続けながら本州の最北端まで拡散。氷河期が終わりを告げるころから、土器を作るようになり、煮炊きによって食べられる食料の種類が格段に増え、定住生活が始まる。約1万6000年前から約2800年前まで続いたこの縄文時代の豊穣な文化を多くの出土品で紹介する写真集。
土器は煮炊きの他にも運搬や貯蔵などにも使われ、生活に大きな変化をもたらした。あく抜きなどに利用されたと思われる片口がついた土器(前期)をはじめ、底一面に小さな穴が開いた土器(後期)、さらに、おろし金(後期)やスプーン(中期)と思われる土製品など、さまざまなタイプの土器・土製品が当時の暮らしぶりを彷彿とさせる。
蒸籠のように編まれた木器が焦げ付いた土器片(晩期)なども見つかっており、蒸す調理法があったと想像されるという。その生活や食事は我々が考えている以上に豊かで文化的だったようだ。
さらに割れた土器(中期)内部で見つかった空洞にシリコーン樹脂を入れて復元すると、豆だったことが判明し、当時からダイズやアズキなどが栽培されていたことも分かった。土器の装飾部にこれらの収穫物を埋め込んだ縄文人の祈りが伝わってくる。
縄文人は、土器だけでなく、自らの姿も土の人形に焼き残している。これまでに約2万体も出土しているこれらの土偶(中~晩期)は、すべて女性像で、三つ編みのおさげや、おかっぱ頭(写真①)など髪形もさまざま。現代彫刻のようにデフォルメされたユニークな土偶から、当時の人々のリアルな姿が浮かび上がってくる。
さらに、弓矢を持って狩りをする姿や落とし穴などの罠、動物などが装飾として描かれた土器(後期)や、イノシシ(写真②)やツキノワグマなどの獲物から狩猟のお供だったと思われるイヌ、さらにフクロウやサルなどを模した人形のような土製品(中~晩期)もある。
中には、横にするとくちばしが現れ、後部が水かきにも見える水鳥のような形なのだが、立てると海獣のようにも見える、現代の工芸品並みの出来栄えの高度な土製品(晩期=写真③)もある。
縄文土器と聞くと、すぐに教科書で見た火焔式土器(中期)や遮光器土偶(晩期)を思い浮かべてしまうが、ページが進むたびに広がるその多彩な世界に驚かされる。
土器や土製品以外にも、丸木舟(晩期)や横槌(ハンマー=晩期)、皮なめし用と思われる道具(後期)などの木器や、海獣の犬歯やシカの骨などで作った釣り針などの骨角器(前~後期)、そして精巧なピアス式耳飾り(後~晩期)などの装飾品まで、650余点の写真を収録。
書名通り、まさに縄文人たちの「作品」が一望できる美術館のような一冊だ。
(平凡社 3000円+税)