「歌舞伎の解剖図鑑」辻和子著
日本の伝統芸能の粋が詰まった歌舞伎。日本人なら一度は見ておきたいところだが、ハードルが高いと二の足を踏んでいる方も多いのではなかろうか。本書はそんな、興味はあるけど一歩が踏み出せない人におすすめの入門ガイド。イラスト図鑑の形式で、基本の「き」からその魅力や楽しみ方まで分かりやすく教えてくれる。
まずは、歌舞伎の人気演目「籠釣瓶花街酔醒」のあらすじを、「美人花魁殺人事件の謎」と題し、週刊誌の記事風に紹介。
歌舞伎には実際の事件をワイドショー的に劇化した作品が多く、これもそのひとつ。吉原で起こった実際の殺人事件をもとに創作されており、劇中で吉原の珍しい風習なども再現されているため、歌舞伎の面白さや華やかさが肌で感じられる、見どころ満載の演目だという。
舞台上で、強盗や拉致監禁などの犯罪が毎日のように行われ、不倫や略奪愛も横行している歌舞伎は、「不良の祝祭」だと著者はいう。昼メロやワイドショーなどのネタを、洗練し、「イケてる感じ」に表現するのが歌舞伎だと。そう聞くと、なんだか肩の力が抜けて、がぜん見てみたくなる。
さらに、歌舞伎のハードルを高くしている要因のひとつ、あの格調高いせりふも、大切なのはストーリーを追うことではなく「基本設定の理解」だという。あらかじめ設定とあらすじが頭に入っていれば不思議とせりふも聞き取りやすくなるそうだ。
その他、独自の仕掛けと工夫がある舞台の秘密、隠れていた本性が現れる瞬間を視覚化した「ぶっ返り」と呼ばれる変身術などの衣装と小道具を使った独自のルール、そして各役者家や名作演目の解説まで。親しみやすいイラストと解説で、堅苦しいと思っていた歌舞伎にぐっと興味がそそられるはず。
(エクスナレッジ 1600円+税)