イスラム社会の風紀を取り締まる宗教警察の恐怖
イスラム社会で重要な役割を果たし、そのイメージが私たちの“イスラム観”に大きな影響を与えているのが、風紀を取り締まる「宗教警察」だ。
高尾賢一郎著「イスラーム宗教警察」(亜紀書房 2500円+税)は、その実態をまとめた日本初となるリポート。
サウジアラビア、イスラム国、インドネシアという、公的機関として宗教警察が存在している3地域を取り上げ、その活動事例を詳述している。
記者殺害事件で注目を集めるサウジアラビア。同国の宗教警察は、正式名称を勧善懲悪委員会という。イスラム社会における風紀の取り締まりの基礎には、善を勧めて悪を懲らしめるという勧善懲悪の思想があり、“正しいイスラム”社会の実現を目指すサウジアラビアにとって、勧善懲悪委員会の存在は大きい。
女性の髪や体を隠すヒジャブの着用を含め、道徳、マナーなど取り締まり対象を9項目設定し、勧善懲悪委員会は2人1組となり町中のパトロールを実施。ある女子高で火災が起きた際には、髪や肌を露出したままでの避難を妨害したとも報じられている。
一方、サウジアラビアは変革の時を迎えており、女性の社会進出を促進する政策が打ち出されている。禁じられていた販売店での就労も可能となり、女性専用の商品を取り扱う店の販売員に女性が増えてきた。興味深いのが、このような変革を勧善懲悪委員会は歓迎していること。
男女の隔離がより進むため、これを機に女性の職員を採用し、男性の立ち入りが難しい女性の空間へもパトロールを強化する構えだという。
宗教警察の実態を知らずして、複雑なイスラム社会を知ることはできない。