「病院のやめどき」和田秀樹著
定期的に健康診断を受け、数値が標準より高いと、医師に言われた通りに薬を飲む。多くの日本人が当たり前にしていることだが、和田秀樹著「病院のやめどき」(朝日新聞出版 750円+税)では、患者が医療を“自己決定”する重要性について説いている。
医師である著者は、日本の医療にはエビデンス(科学的根拠)が非常に乏しいと言う。欧米では今、「EBM=科学的根拠に基づく医療」という考え方が主流になり、大規模な臨床調査により効果の確実性を確認できた治療のみが行われるようになっている。日本でも薬の服用で数値が変動することは明らかになっているが、5年後、10年後に防ぐべき病気にならなかったというエビデンスはほとんどない。つまり日本人の多くは、数値は下がるがその先に求める効果があるかどうか疑わしいまま、大量の薬を飲まされているわけだ。
将来的な効果がないうえ、副作用によりQOL(生活の質)が下がる場合もある。アメリカの調査では、高血圧治療に用いられるクロルタリドンという薬には、脳卒中の発生を遅らせる効果があるものの、服用しないグループと比べるとその差はわずか1~2年程度で、脱水やめまいなどの副作用に苦しめられることが明らかにされている。脳卒中の発症をわずかに遅らせるか、それを捨てて副作用なしで快適に生きる道を選ぶか。これは患者自身が選択すべきことで、薬を処方する医師が勝手に決めていいことではない。
本書では、待合室を観察する、看護師やケアマネジャーの話を聞くなど、患者がいい医者を見極め医療を自己決定するためのヒントも紹介。健康で長生きしたければ、医療を漫然と受けるのはやめるべきだ。