「あかんやつら」春日太一著/文春文庫
「江戸城は誰が造ったか」と問われて、太田道灌と答えると正解とされる。「いや、大工と左官が造ったのだ」は笑い話とされるが、これをジョークとしてしまっては、カルロス・ゴーンの高額報酬を批判できなくなるだろう。私はゴーンの登場当時から、その首切り経営を持ち上げる気にはなれず、「噂の真相」の2001年2月号で「筆刀両断」した。
「東映京都撮影所血風録」の「あかんやつら」の第9章は「仁義なき戦い」である。
笠原和夫の脚本を監督した深作欣二は、「この映画は画面におる全部が主役なんだ!」と叫んで大部屋役者たちを奮起させた。そのひとりに川谷拓三がいる。川谷は田山力哉著「脇役の美学」(講談社)でこう言っている。
「たとえ道端に倒れて死ぬチンピラAでも人ひとりの命。死ぬ時は大事に死んであげなければと思ってました」
ちなみに、「脇役の美学」に取りあげられているのは川谷の他に、殿山泰司、金子信雄、浜村純、伊藤雄之助、左ト全、石橋蓮司、八名信夫、浦辺粂子、そして樹木希林である。
この中の金子信雄が「仁義なき戦い」で、ずるい親分の山守に扮し、松方弘樹演ずる子分にこう詰め寄られる。
「おやじさん、云うとってあげるが、あんたは初めからわしら担いどる神輿じゃないの。組がここまでなるのに、誰が血流しとるんや。神輿が勝手に歩けるいうんなら、歩いてみないや、のう!」
主演の菅原文太と「俳句界」の2011年3月号で対談した時、菅原は私に、「ヤクザという言葉もね、今はもう枠の外に追い出されてしまって、使うことすら憚られるようになってしまった。俺からしてみれば、今の政治家たちの方がヤクザ商売じゃないかって思う」と述懐した。
鶴田浩二主演の映画「傷だらけの人生」を思い出す。戦時下に軍部は「お国のため」を振りかざしてヤクザを戦争に協力させようとする。喜んでそれに応ずるヤクザもいるが、鶴田の演ずるヤクザはそれを嫌い、「自分たちも組の代紋を背負って無法なことをやるが、国家という“菊の代紋”を背負っている奴らが一番アコギなことをする」と吐き捨てるのである。
★★★(選者・佐高信)