「『10%消費税』が日本経済を破壊する」藤井聡著/晶文社
本書の内容は、来年10月に迫った消費税率10%への引き上げを、徹底批判するものだ。
本書の前半は、消費税率引き上げが、どれだけ経済に悪影響を与えてきたのかを分析することに費やされる。14年に消費税率を8%に引き上げた後、実質賃金の下落で家計は貧しくなり、中小企業の経営は悪化した。また、税収までが伸びなくなった。そのことを、豊富なデータと図表によって、分かりやすく示している。
著者の消費税増税批判は、97年に消費税率を5%に引き上げた際にも及ぶ。この増税をきっかけに、日本経済はデフレに陥り、世界の22%を占めていた日本のGDPシェアは、20年間で6%にまで転落した。同時に、税収も転落していった。
そうした分析を踏まえて、消費税率を10%に引き上げれば、日本経済に破壊的なダメージを与えるというのが著者の強い警告だ。
それではどうしたらよいのかというのが、本書の後半だ。著者は、消費税増税を凍結し、当面は躊躇なく国債発行をすべきだとする。その上で、代替財源として、法人税や所得税の増税、金融所得課税、環境税などを提言する。ただ、著者が主張する対策の主力は、そうした代替財源ではなく、消費税増税を凍結したうえで、さらに消費税減税を行う(作戦1)か、大型の財政出動を行う(作戦2)ことで、日本経済をデフレから脱却させ、税収を増やすことだ。
私は、本書を読む前から作戦1がよいと思っていた。だが著者の持論である「国土強靱化を中心とする大型財政出動」の作戦2も、有力な方法だと思うようになった。南海トラフ地震と首都直下地震が連動して起きたら、日本は、いきなり発展途上国に転落するという話を最近、地震の専門家から聞かされたからだ。
いずれにせよ、重要なことは、著者が京都大学教授であると同時に、内閣官房参与であることだ。つまり、著者は安倍総理の経済参謀なのだ。その参謀が、これだけはっきりと消費税10%への増税が日本経済を破壊すると言っている以上、安倍総理が来年7月の参議院選挙の前に、消費税増税凍結を打ち出す可能性は、かなり高いとみるべきなのではないだろうか。★★半(選者・森永卓郎)