「情報戦争を生き抜く武器としてのメディアリテラシー」津田大介著(朝日新聞出版/910円+税)
355ページもある新書なんて初めて見た……とまずはギョーテンする書であるが、とにかく、ここ何年かのネットにまつわるさまざまな事例をこれでもか、というぐらい繰り出してくる。もともと2009年に「Twitter社会論」(洋泉社)で、ネットにまつわる明るい側面を描いた著者が、昨今の絶望的なネットの状況を描き出す。従来筆者は「オピニオン」を発することに長けた人物ではあるが、本書はひたすら世界各国のネットで発生する事例を事細かに紡ぎ出す。
それは、アメリカや日本の現状は当然ながら、マレーシアやシンガポールにも及ぶ。また、米大統領選にロシアが関与した件が米民主党にとってはトランプ大統領批判に使われている現状があるが、なぜロシアがここまで選挙に関与できるのか、といった事情まで明らかにしていく。
膨大な文献と参考URLを各項目の終わりに貼り付けているため、興味のある分野についてはネタ元を参照することも可能なつくりになっている。
昨今話題の片山さつき参議院議員についての言及もあるが、これは同氏のあやうさを突いている。もともと、安易にネットの陰謀論に乗るタイプの政治家だったが、2016年に発生した「NHK貧困女子高生ねつ造疑惑炎上騒動」の項目で同氏は言及されている。
この騒動は、NHKのニュース番組に登場した貧困とされる女子高生が実際は高額のライブに行っていることや、1000円以上のランチを食べていることから貧困ではない、と批判されたもの。
〈ネットの情報を参照し、「チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思う方も当然いらっしゃるでしょう」とバッシングに便乗。疑惑を持つネットユーザーたちから喝采を浴びた〉
本来ネットは弁証法のごとく集合知が合わさり、より良い社会を作るものだと捉えられていた。だが、ユーザーが増え過ぎた結果、いや、もはやインフラとなったことにより現実社会と同様の“修羅の国”状態になるばかりかフェイクニュースなども蔓延し、それで金もうけをする人間まで登場する事態となった。
このようにかつて「ウェブ進化論」で大ブレークした梅田望夫氏が「日本のウェブは残念」と述べてネットから撤退したようにネットは残念な状態になっているが、終章では残念な状況を理解しつつもなんとか良くするための提言をしているのが救いである。
★★★(選者・中川淳一郎)