高野山で異彩を放つ「企業墓」の謎
空海が開いた真言密教の聖地、高野山。年間200万人も訪れる観光客は、一様に空海の墓所である奥之院御廟に詣でる。その参道は、名だたる戦国大名の墓所をはじめ、数多くの墓がひしめき合うことで知られているが、中でもひときわ異彩を放っているのが、個人ではなく法人の墓、つまり企業墓だ。
山田直樹著「ルポ企業墓」(イースト・プレス 1600円+税)では、高野山の金剛峯寺域内や周辺に140基もあるという企業墓をテーマにしたノンフィクション。そのユニークな形態を紹介するとともに、企業が墓を建立するという世界でもまれな行いの背景にも迫っている。
高野山中之橋駐車場方面から奥之院に歩を進めると、右前方に堂々とたたずむアポロ11号を模したロケット型の慰霊碑が見えてくる。これは輸送機器メーカー、新明和工業の企業墓だ。そのまま進んでいくと、足袋や靴下製造の福助の企業墓がある。石造物の上に鎮座する福助人形が強烈なインパクトを放つ。天に向かって力強く生える毛髪をデフォルメしたような墓石のアデランス、巨大なカップとソーサーがお出迎えするUCC上島珈琲、ヤクルトの企業墓には巨大ヤクルトの石碑が鎮座している。
なぜ企業は墓をつくるのか。日本には、故人を手厚く葬らずに回向を欠くと、悪霊となって現世に影響を与えるという考えがある。だから企業は先人を弔い、供養や慰霊を欠かさない。企業墓は、その象徴と考えることもできると著者。
本書では、企業墓には何が“納骨”されているのか、高野山以外に建立されている企業墓の特徴、そして“人以外”を供養する企業墓なども取り上げている。日本特有の企業墓の魅力と謎を堪能して欲しい。