大工経験ゼロの素人でもマイホームを自作できる!
夢のマイホームを自分の手で一から建てる。阪口克著「家をセルフでビルドしたい」(文藝春秋 1650円+税)は、そんな男のロマンを実現するまでのノンフィクションだ。とはいえ、著者は建築家でも何でもなく、フリーの雑誌カメラマン。本書には、素人が3LDKの家を完成させるまでの、悪戦苦闘の6年間がつづられている。
いったいなぜ自力で家を建てるなどという突拍子もないことを思いついたのか。当時の著者はアラフォーで、都内のアパートで妻とふたりで暮らしていた。仕事も順調で充実した毎日。しかし、アパートと仕事場を行き来する生活リズムに、少々飽きが来ていた。
「明日、何が起こるか分からない毎日」がほしい。そんな鬱憤をためていた頃、ふらりと立ち寄った本屋で手づくりログハウスの本を手にしたことをきっかけに、セルフビルドの夢にとりつかれてしまう。最大の難関は妻の説得だと思っていたが、あっさりお許しが出たことで勢いづき、埼玉県の長瀞に1200万円で288坪の土地を購入。いよいよ家造りがスタートする。
3坪以上の建築物の設計には、最低でも2級建築士の資格がなければ建築確認申請を出すことが困難だ。そこで間取り図までは自分で作製し、申請用の正式な図面は建築士に依頼。その後は材木店で材木を購入し、ひたすら材木にほぞとほぞ穴を刻み続ける日々が続く。ようやく2年をかけて棟上げまでたどりつくが、素人工事がそんなにうまくいくわけがなかった。屋根に貼った防水紙は強風でちぎれ飛び、配管工事の溝掘りは失敗。玄関の上がりかまちの高さは60センチにもなってしまい……。汗と涙の建築記。セルフビルドの実用書としても活用できそうだ。