「いも殿さま」土橋章宏著
そろばんの腕を生かして30年以上勘定方として幕府に仕えてきた井戸平左衛門は、体の動く元気なうちに、好物の甘味を求めて全国を旅する気ままな時間が欲しくなり隠居を思い立つ。ところが隠居届を出そうとしたその日、上役から飢饉と悪政に喘ぐ石見銀山の立て直しの依頼を受けた。あまりの重責に辞退しようとした平左衛門だったが、将軍しか食せない幻の菓子を褒美にもらえると聞き、思わず承諾してしまう。
しかし井戸家用人の尾見藤十郎を連れて石見銀山へと旅立った平左衛門が見たのは、想像以上に荒れ果てた土地。
ショックを受けた平左衛門は、大好きな甘味を断ち、人々のために働くことを決意するのだが……。
実力派の脚本家であり、2013年に小説「超高速!参勤交代」で作家デビューした著者の最新作。生来の真面目な性格できっちり勘定方を務めてきた旗本が、還暦前に人々のために大役を果たす人情物語。人間味あふれる登場人物のやりとりがなんとも面白く一気に読める。大飢饉を乗り越えるために自らの職責を全うする平左衛門の在り方に感動させられること必至。
(KADOKAWA 1600円+税)