「ヘンな名湯」岩本薫著
日本には約3000もの温泉地があり、温泉施設に至っては2万カ所以上ある。それらを利用する宿泊客は年間で日本の人口を軽く超える。
温泉好きな日本人を満足させるために、山奥の秘湯から贅を極めた温泉旅館まで、ちまたには温泉情報があふれ返っている。だが、本書はその名からも分かる通り、類書などでは決してお目にかかれない「ヘンな」温泉施設を紹介するガイドブックだ。
ヘンとは何が変なのか、ヘンなのに名湯とはこれいかに。そんな疑問を抱きつつ、ページを開いてみると、すぐに納得。自動車整備工場の敷地の奥、温泉の看板も出ていない飾り気のない建物で営業する「光風温泉」(青森県)や、「でめ金食堂」(岩手県)というドライブインに併設され、食事をした人だけが入れる温泉、魚屋さんが自宅の風呂として使っていた鉱泉が評判となり、湯小屋を造って一般客に開放した「丸一魚店 美山富士の湯」(福島県)など、確かに普通の施設に慣れた身にはハードルが高そうな温泉ばかり。
でも、その一つ一つを自ら堪能した著者によると、それぞれが個性的で「浴感」は最高なのだそうだ。
他にも玄関で出迎えてくれる謎の人形をはじめ、館内がオブジェでカオス状態の「赤城温泉 御宿総本家」(群馬県)や、湯船に源泉を注ぎ込む湯口がなんと乳房の形をしているその名も「おっぱい風呂」(新潟県松之山温泉・白川屋)、白装束のマネキンが出迎えてくれる宗教施設の祭壇の裏にある「永和温泉みそぎの湯」(愛知県)、どう見ても民家にしか見えない一軒家の玄関を入り、鉄のらせん階段で下りていった地下深くにある「吉尾公衆浴場」(熊本県)など31温泉を網羅。
勇気を出して訪ねれば、そこには最上の温泉があなたを待っている。
(みらいパブリッシング 1450円+税)