ひきこもりと向かい合う
「ドキュメント・長期ひきこもりの現場から」石川清著
川崎の高齢ひきこもり殺人、練馬の息子刺殺で新たな問題となったのが「長期ひきこもり」だ。
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20年近くもひきこもり家庭への訪問支援を続けてきた著者。その回数は年間およそ800回にのぼるという。いわば「家庭教師のようなもの」という具体例を紹介する。
高校入学と同時に空回り状態で不登校になる。親に対する長年の怒りをため込み、「名字を変えたい」と相談される。逆に70歳で定年になった父が酒浸りになり、ひきこもりの息子と口論になることもあるという。類書にありがちな派手な書き方とは真逆の、とつとつとした筆致。それがむしろ、ひきこもりに苦しむ相手の心を開かせる人柄でもあるだろう。
ひきこもり支援は「精神的自立」「社会的自立」「経済的自立」の3つ。全員同じことはあり得ず、極端な節約家も極端な浪費家もいて、個別にそれぞれ繊細な対応が必要だ。著者自身はフィリピンで子供時代を過ごした帰国子女経験から、日本社会特有の息苦しさを感じたことが隠れた背景にもあるようだ。
多数の“ひきこもり本”の中でも出色の一冊。
(洋泉社 1700円+税)
「今ひきこもりの君へおくる踏み出す勇気」吉濱ツトム著
幼いころから自閉症の症状に苦しみ、しかも両親がそれに気づかなかった著者。19歳のとき、父に「理解できない。家から出ていってくれ」と言われたという。そのままホームレスになり、その後、1人暮らしで7年間ひきこもりとなった。
その時期、みずからのアスペルガー症候群と向かい合って猛勉強し、自分自身を劇的に変革したのが26歳のとき。その体験をもとに、自身で相談者と直接深く関わる発達障害カウンセラーとなった。
自身の人生を振り返りながら、ひきこもりと向かい合う方法を伝授する。
(KKベストセラーズ 1389円+税)
「農で輝く!ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園」小島希世子著
ホームレスには金や住まいを与えてもダメ。しかし、仕事を世話すると社会復帰するという。これを実践するのが藤沢市の一隅で農園を営み、農起業のためのスクールも運営する著者。実際に幾人ものホームレスに農業指導をしてきた。さらに長年ひきこもりに苦しんできた人たちも土に触れ、作物を育てる仕事で大きく変化するという。
ひとりでコツコツやる農業は人間関係でつまずく度合いが小さく、一般企業のようなノルマもない。取り入れというかたちでの成果も見えやすい。
「土」こそ人の営みの基本と痛感する。
(河出書房新社 1550円+税)