「老父よ、帰れ」久坂部羊著
矢部好太郎は認知症専門の医師の講演を聴いて、目からウロコの思いだった。認知症の介護に失敗するのは、認知症を治そうと思うからだ。正常であると確かめようと、日付を聞いたりすることが高齢者のプライドを傷つける、恩返しのつもりで介護をせよ、と。
認知症が進んだ父を老人ホームに入れた好太郎は、家族を説得して父を引き取ることにした。介護休業を取り、書斎を整理して介護ベッドを入れた。チーフヘルパーが、「息子さんが家に連れ帰ってくれるそうよ」と言うと、無表情だった父は「知っとる」と言った。久しぶりに聞く意味のある言葉だ。だが、1週間目、父がトイレに籠もるというトラブルが……。
老父の介護に振り回される家族の日々を描く。
(朝日新聞出版 1600円+税)