「ヒトは120歳まで生きられるのか生命科学の最前線」田原総一朗著/文春新書/2019年
田原総一朗氏は時代を先読みする鋭い勘を持っている。現在、85歳の田原氏は、ゲノム編集やAI(人工知能)について精力的に取材し、執筆している。
<二○一○年を過ぎたころ、遺伝子操作の技術に、突如として大きな技術革新が起きた/それが「ゲノム編集」である/ゲノムとは、DNAに含まれる全ての遺伝情報の総称であり、「生物の設計図全体」と言える。この設計図を、自由自在に編集できるようになったのだという>
伝統的に神の領域とされていた生命を、技術的に人間が操作できるようになった。その結果、人間はかなり延命できるようになる見通しだ。
<これまで、医療は病気を治めるため、そして人間の寿命を何とか延ばすことが目標であり、世界中の医学者や医師たちはそのために努力をしてきた。その結果として日本人の平均寿命は男女共に八十歳代に延びた/ゲノム編集による再生医療によって、今後十年くらいで、ほとんどの病気が克服されると、当然、平均寿命は今よりもさらに大きく延びることになる。山中氏は、平均寿命が百二十歳くらいになるのではないか、と大胆な予測を話してくださったのだ>
120歳まで生きるとなると、60~65歳で定年になり、社会の第一線から退くというスタイルの生活はできなくなる。100~110歳までは働かなくてはならない。さらにAIによって、従来、ホワイトカラーといわれる人々が従事していた事務職のほとんどがなくなる可能性がある。そういう状況では、新たな仕事を見つける能力が重要になる。この能力を田原氏はモチベーションと呼ぶ。
<汎用型の人工知能が活躍する時代に、従来型の労働者は不要になる。しかし、人間が生きるためには、常に新しいビジネスが必要になる。それを生み出せる人、発想できる人は、モチベーションのある人間に他ならない>
たいして賃金も良くはないけれど、働き続けるモチベーションを維持するためには、数値化できない要素が重要になる。評者は他者のために奉仕するということで、自分が生きている意味を確認することがモチベーションを生み出すと考える。 ★★★(選者・佐藤優)
(2019年11月7日脱稿)