「SNS変遷史『いいね!』でつながる社会のゆくえ」天野彬著/イースト新書/920円+税
「インターネット」や「SNS」という言葉に拒否反応を覚える方に読んでもらいたい本を見つけた。私は、インターネットを使い始めて今年で25年になり、ツイッターを使い始めて10年、フェイスブックは9年になったが、結果的にネットが自分の人生をかなり開いてくれたと感じている。
現在、私はニュースサイトの編集業務をメインの活動としているが、この特性を生かしネットについて分析を続けた結果、こうして本紙で書評の欄も担当させてもらえることとなった。
とはいっても、自分の場合はネットのネガティブな面や、人間の愚かさを分析することをやり続けた面がある。一方、本書はあくまでも客観的なネットやSNSの歴史の変遷を伝えるとともに、さまざまな文献をもとにした社会学的アプローチからネット上の人々の動きや、そこから生まれるアクションなどを分析する。
昨今、大阪の小6女児がツイッターを通じて栃木県の35歳の男と知り合い、彼の家に行くという事件があった。こうした際、SNSの危険性がことさらに強調されるが、本書では良い使い方についても言及する。
時代が「ググる」(検索)から「タグる」(ハッシュタグをつけたり、タグをたどる)に変わっていると指摘したうえで、こうした具体例を紹介する。筆者は情報環境研究者の濱野智史氏と議論したといい、そのときに濱野氏が話した「タグる」に関する実体験だ。濱野氏は娘が生まれた後、医療・健康情報をネットで検索したが、根拠なしに不安をあおる情報やフェイクニュース系サイトの情報ばかりが見つかったという。
〈そのとき活用したのがインスタグラムだった。「#生後一ヶ月」といったタグで検索すると、それこそ大量の同世代の赤ちゃんたちの写真がリストされ、それを眺めていると、娘と同じようなコンディションの子もいくらでもいることがわかった。多様性が手元に広がったし、いろいろな懸念が杞憂だったと心底ホッとすることができた。このとき、まさに「タグる」ことを通じた「リアリティ」を感じた〉
SNSがいかに短期間で人々の生活に浸透し、影響力を高めてきたかは、タイトルにある通り、本書の「変遷史」を通じて振り返れば理解できることだろう。ネット事情に詳しい人からすれば「あぁ、こういうのもあったな」と知識を再び戻すことが可能で、詳しくない人、拒否反応を持つ人は新たな知識を得ることができる。 ★★半(選者・中川淳一郎)