「雨ときどき編集者」近江泉美著
日本は翻訳大国といわれている。英米仏独ロはもちろん、その他、少数言語の翻訳小説が数多く紹介されている。それに比べて日本語の小説が他言語に翻訳されるのは、村上春樹作品を除いてまだ少ない。
ただ、かつてのように文化の違う外国の人に日本の小説を理解させるのは難しいといった感覚は薄れ、今後、ポスト村上春樹として新たな作家が登場してくる可能性は大いにある。
本書は自分が担当した作家の作品をドイツ語で出したいと奮闘する編集者の物語だ。
【あらすじ】真壁は、大手出版社・仙葉書房の中堅文芸編集者。新人の頃から担当していたベストセラー作家、樫木重昂が28歳という若さで急逝したのが昨年のこと。その痛手からまだ立ち直れないところへ樫木から手紙が届いた。遺品を整理していた遺族が見つけて送ってくれたのだ。
そこには、幼い頃に別れたドイツ人の父親に自分の作品を読んでもらいたいと書かれていた。ところが樫木の父親は生粋のドイツ人で日本語を読めない。となればドイツ語に訳すしかない。真壁はライツ事業部に行き、ドイツ語訳を出しそうな出版社がないかを相談する。大ベストセラー作家の樫木なら問題ないだろうと思っていたが、担当者の返事はけんもほろろ。既に亡くなり新作が期待できない作家は商売にならないというのだ。
仕方なく真壁は自力で翻訳者を探して、ドイツの出版社に売り込もうと考えるが、それを実現するには予想以上の困難が待ち受けていた……。
【読みどころ】真壁が見つけたのは、クラウスというドイツ人留学生。真壁とクラウスの翻訳論議はいささか誇張気味ではあるが、翻訳という仕事の本質をついてもいる。編集者&翻訳家のお仕事本。 <石>
(KADOKAWA 590円+税)