「ザ・藤川家族カンパニー ――あなたのご遺言、代行いたします」響野夏菜著
身内が死に、生前伝えられていなかった遺言書を発見する。しかし、それを勝手に開封してはならず、しかるべき法的手続きが必要だ。
そうした場合の遺言手続き代行サービスというのはあるが、本書の遺言代行業は、死に臨んで、謝りたかったのに謝れなかった、返しそびれていたものを返したいといった「小さな遺言」を代行するという風変わりな仕事だ。
【あらすじ】横浜のかつての繁華街に立つ築50年、2階建て木造モルタル造りの藤川家には5男1女のきょうだい6人が暮らしている。長男の四寿雄は遺言代行業「ザ・フジカワ・ファミリー・カンパニー」の代表。次男の五武は弁護士、三男の六郎は浪人中、七重、八重、九重は三つ子で中学3年生。きょうだいといっても、四寿雄・五武、六郎、三つ子の3組それぞれ母親が違う。
父親の三理はテレビにも出る有名な写真家・詩人で根っからの自由人、お金は出すが口は出さない。遺言代行業といっても、実質的には四寿雄が便利屋の傍ら道楽でやっているもので、きょうだいたちはそれに仕方なく付き合わされている形だ。依頼の内容も、娘がいないのに「亡くなった娘に詫びたい」とか、「ブイヤベース、美味しかった」という意味不明なホームレスの遺言など奇妙なものばかり。
そこへ突然、小学生の少女が藤川家を訪れる。名前は十遠、三理の隠し子だという。きょうだいたちは鷹揚に彼女を迎えるが、紅一点の七重だけは受け入れられない。なぜなら……。
【読みどころ】いい加減でだらしなくお調子者の長兄をしっかり者のきょうだいたちが支えるというホームドラマ。父の“3”から末子の“10”まですべて数字が名前に入っているが、気になるのは1と2。続編で明らかになるのだろうか?
(集英社 650円+税)