下村敦史(作家)
5月×日 講談社の担当編集者と電話。コロナの影響があり、日刊ゲンダイで去年連載した「残された命(仮)」の発売時期を相談する。刊行を今年の7月から来年の5月へ延期。
元々室内仕事ではあるものの、外出自粛中では編集者と打ち合わせもできず、執筆ばかりなので、日記に書くほどの出来事に乏しい毎日。
5月×日 「残された命」と同じ安楽死がテーマの「眠りの神」(角川書店)を読む。第38回横溝正史ミステリ大賞において、「人間狩り」で優秀賞を受賞してデビューした犬塚理人さんの2作目だ。
物語の主人公は、スイス人の父親と日本人の母親のあいだに生まれた絵里香・シュタイナー。医師である絵里香は、スイスの自殺幇助団体「ヒュプノス」でボランティアとして働いている。
膵臓がんの母親が苦しみ抜いて亡くなったことにより、後悔した絵里香は安楽死について考えるようになったのだ。
日本とは違って、スイスでは人生末期の自殺幇助が容認されており、外国人の安楽死希望者も受け入れている。
日本人による安楽死依頼が「ヒュプノス」に舞い込み、日本語が話せる彼女が依頼者の症状と状況確認のため、日本へ行くことになる。
その日本では、「ヒュプノス」に安楽死を断られた日本人が何者かに自殺幇助される事件が発生していた。調べると、被害者の周辺で“ミトリ”と名乗る人物が暗躍していることが分かる。
「眠りの神」は、安楽死の持つ倫理的な問題をえぐりつつも、日本国内で安楽死事件を起こしているのが誰なのか、“ミトリ”が何者なのか、という謎が並行して進んでいく良質のミステリーだ。
改めて安楽死問題の難しさを意識する。
5月×日 幻冬舎の担当編集者と電話。登場人物全員が同姓同名というアイデアに挑戦した、着想から3年半の渾身の勝負作「同姓同名」の改稿案について打ち合わせ。コロナ禍の中でも、今年9月下旬発売予定は変わらず、ほっと一安心。
1日も早いコロナ禍の終息を願う。