安藤祐介(作家)
7月×日 時節柄、室内にこもることが多く、読書も自ずと捗る。薬丸岳さんの「告解」(講談社 1650円+税)を一気に読了。犯罪の「その後」を描き続ける薬丸さんが、加害者本人の視点を中心に描いた今作。ひき逃げで老女の命を奪ってしまった大学生・籬翔太と、彼の家族や恋人、被害者の家族、それぞれの葛藤が胸に迫る。物語の随所で「自分ならどうする?」という問いを何度も突き付けられた。私は不勉強で「告解」という言葉を知らなかったので、物語を読む前に辞書で引いてみた。罪の許しを得る行為を指すそうだ。罪を犯した者が幸せになってよいのか。家族を殺した者を許せるのか。物語を最後まで読んで、私は初めて告解という言葉の真の意味を知った心地がした。
ちなみに「告解」は今年2月に「小説現代」リニューアル第1号の誌上で一挙掲載された際に読み、先日単行本を買って再読した次第。「告解」のみならず、リニューアル後の「小説現代」は毎号読み出したら止まらない時間泥棒で、許しがたいほど面白いということにも触れておきたい。
今夏もM―1グランプリ始動の朗報に触れる。実は昨年の夏、私は42歳にして初めて漫才の舞台に立ち、M―1グランプリの1回戦に出場した(1回戦敗退)。そんな私がM―1戦士の端くれとして読んだのが、ナイツ塙宣之さんの「言い訳 関東芸人はなぜM―1で勝てないのか」(集英社 820円+税)。漫才への愛、お笑いへの愛、芸人仲間への愛、そしてM―1への愛が詰まっている。「しゃべくり漫才の母国語は関西弁」「南海キャンディーズは子守唄」「オードリーはジャズ」など、絶妙なたとえが散りばめられ、活字を追いながら漫才師・塙宣之さんの話術を楽しんだ心地にもなれる。
最後に、私事で恐縮だが去る6月、新刊「夢は捨てたと言わないで」(中央公論新社 1600円+税)が発売された。吉祥寺のスーパーが、バイトの芸人たちを集めて「お笑い実業団」を結成する。お笑いを題材にした長編小説。ぜひご一読を。M―1に出たのは小説の取材のためだったのだが、また挑戦したいと思っている。