越谷オサム(作家)
7月×日 以前はそこそこ混雑していた9時台の電車にも、新型コロナウイルスの影響でちらほら空席が。本読みとしては確実に座れてありがたいことだが、鉄オタとしては鉄道会社の今後が気がかり。
と世を憂いつつシートにどっかりと腰掛けて「吉田豪の巨匠ハンター」(毎日新聞出版 1800円)を読む。プロインタビュアーで書評家の吉田豪によるインタビュー集。目次には昭和の時代からマンガ/アニメ業界で活躍してきた重鎮たちの名がずらり。
わかっちゃいるが吉田豪さんのインタビューにハズレなし。このおもしろさは、こまごまと説明するよりも小見出しをいくつか挙げたほうが伝わるだろう。
「殺したいぐらいの男たち」
「問題作のつるべ打ち」
「私は揉めてない」
こんな具合です。
神保町「音福」で津軽三味線の稽古。11年目。よく続いている。
水道橋で昼を済ませ、上野の国立西洋美術館へ。「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を鑑賞。こちらはイタリア・ルネサンス期から19世紀末までの巨匠たちの作品がずらり。ボッティチェッリだレンブラントだルノワールだと、各時代の四番打者を揃えたラインナップは壮観だが、オールスターゲームに似た総花的な空気はどうしても漂ってしまう。その中にあって、ラトゥール「ばらの籠」が俊足堅守の仕事人のような味わいを醸し出しておりました。
ともあれ、コロナの影響をまともに受けながらも開催に漕ぎ着けてくれた関係者への感謝の意味も込め、図録を購入。
7月×日 買ってきた図録をパラパラ眺めつつ、「吉田豪のロンドン展巨匠ハンター」を妄想。時空を超越したこのインタビュー集、なにしろメンツが強烈。生粋のサークルクラッシャーで、誰とでも必ず揉めるドガ。蒸気船のマストに自らの体を縛り付けさせ、荒れ狂う海を延々観察していたターナー。そして真打・耳切りゴッホ。胸やけするほどコクのあるエピソード満載。読みたい。