島田裕巳(宗教学者、文筆家)
7月×日 ようやく今年も半年が過ぎたが、いろいろなことがありすぎた。コロナ・ウイルスのことが大きく影響しているが、非常勤で教えている大学の授業も毎週ズームを使ってやっている。大学まで出かけないですむし、授業内容は対面の場合とあまり変わらない。ゼミも同じくズームで、カリキュラムの関係で受講生は1人。1対1で西田幾多郎の「善の研究」(岩波書店 1400円)を読み続けているが、発見がかえって多い。
西田の人生は高校を中退して東京帝大では正規の学生になれなかったり、家庭的にも妻や子供を亡くしている。その分、幸福を求める気持ちが強く、「善の研究」で追求している純粋経験とは、幸福な状態を意味するのではないか。そんなことが理解できるようになってきた。
そんななか、いただいた平野純著「怖い仏教」(小学館 800円+税)を読む。仏教は穏やかな宗教だというイメージが強いが、実は相当に恐ろしいことが説かれているというのが、この本の趣旨になる。主にそれは性的な欲望にかかわることで、釈迦は肉体は穢いものと教えたが、弟子たちは性欲を抑えきれない。つくづく宗教というものは矛盾したものだ。西田の言う「絶対矛盾の自己同一」ということか。
7月×日 Kindle版の李雄杓著「桜の源氏物語」(1250円)を読み終える。著者は韓国で学習塾を経営しているが、以前は仕事で日本に駐在していたこともあり、コロナ禍になるまでは頻繁に来日していた。旅行関係のフェイスブックを主宰していて、その縁で知り合い、ともに韓国を旅したこともある友人だ。
この本、桜や古寺をめぐる日本の旅行記で、以前第1稿を送ってもらい読んだことがある。その時はまだ日本語がおぼつかなかったが、出版されたものは実に見事な日本語になっている。しかも、俳句、和歌、漢詩と、普通の日本人でもできない多才さが発揮され、内容も面白い。これだけ日本を愛する韓国の人がいるということも、今の両国の状勢を考えると貴重だ。