「ロヒンギャ 差別の深層」宇田有三著

公開日: 更新日:

 3年前の夏、70万人を超えるロヒンギャの人々が、ミャンマーから隣国バングラデシュへ逃れたニュースが世界中に流れた。

 軍事独裁国家から民政移管され、民主化活動家のアウン・サン・スー・チー氏が国家指導者となったミャンマーでの出来事に注目が集まり、国際社会には当初、彼女が問題解決に積極的に取り組むだろうとの安易な期待があった。しかし、解決の道は遠く、祖国に帰れぬままの難民たちは、今も苦渋の生活を強いられている。

 そもそも、ロヒンギャ難民のバングラデシュへの流出は、これまでも軍政時代の1978年に約20万人、そして同じく1991年に約25万人と、2回起きており、3年前に突然始まったわけではない。

 本書は、軍政時代の1993年から潜入取材を続け、ミャンマー全土を踏破したフォトジャーナリストが、ロヒンギャの人々が置かれた構造的差別の実態を伝えるフォトリポート。

 ロヒンギャは世界で最も虐げられている少数者と呼ばれる。なぜなら紛争国を脱出した難民とは異なり、ロヒンギャはミャンマーで国籍を剥奪された無国籍者だからだ。

 また、ロヒンギャ問題は、民族問題のひとつとみられがちだが、彼らが求めてきたのは「民族としてのロヒンギャ」ではなく、「ムスリム(イスラム教徒)としてのロヒンギャ」だという。

 彼らが迫害を受けるようになった問題の根底にあるのは、実は半世紀続いたミャンマーの軍事独裁政権が、上座部仏教徒が多数派を占める社会で、その権力基盤を強化するために、人々のイスラムに対する差別的な潜在意識を刺激してつくり出した政策だという。

 そうしたロヒンギャ難民が生まれた複雑な背景や歴史を、写真とともに解説してくれる渾身作。

(高文研 2500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…