「奇想の国の麗人たち」中村圭子編著
平安時代の「源氏物語」や江戸時代の「雨月物語」など、日本人に長く語り継がれてきた古典・伝承文学には、民族に共通する心、心理学が説く「集団無意識」が潜んでいる。そこから日本人の特性を読み解くこともできるという。本書は、そんな日本の伝説や古典文学を、その物語をテーマにした絵画と共に紹介するビジュアルガイド。
第1章「異類の怪」には、鳥や狐など動物が人間に化けて人と結婚する「異類婚姻譚」を集める。
「日本霊異記」に初めて登場するなど、変身する狐は多くの伝説で語られてきた。室町時代の画家・土佐光信が描いた老僧が狐にたぶらかされる絵巻「きつねの草子」や、陰陽師の安倍晴明の出生の秘密にもつながる「葛の葉」を主題にした浮世絵師・月岡芳年の作品などが取り上げられる。
他にも、愛する男を追いかけるうちに蛇になってしまった娘の物語「安珍と清姫」の世界をエロチックに描いた、昭和初期の画家・版画家橘小夢の絵をはじめ、人魚や蜘蛛など人間に変身した動物たちの物語を紹介。
仏教伝来前、日本では死後に人は地底の「黄泉の国」に行くと考えられていた。やがて仏教の教えと混ざり合い、独自の死後の世界観がつくられた。
地獄の様子を描いた鎌倉後期の「春日権現験記絵」などから先人たちがイメージした死後の世界を垣間見る第2章「地獄と極楽」をはじめ、現世に心残りがあり成仏できずにさまよう「霊魂」をテーマにした章と続く。
同性愛を罪と見なすキリスト教圏ではありえないが、日本では古典の一角を占める男性同性愛を主題にした物語も網羅。
中世の絵巻から現代の作品まで、多彩な絵画に誘われ、私たちの精神のルーツともいえる古典文学の豊かな世界を案内してくれるオススメ本。
(河出書房新社 1900円+税)