「インビジブル」坂上泉著
昭和29年の大阪を舞台にした長編である。主役は、大阪市警視庁の巡査新城洋と、国警大阪府本部警備部の守屋恒成警部補。この「大阪市警視庁」と、「国警大阪府本部」をまず説明する。
日本を占領したGHQは、警察を解体し、米国式の自治体警察、通称「自治警」と、国家地方警察、「国警」の2本立てに再編した。そのとき発足した大阪市の自治警が警視庁の名を冠することになったというわけ。つまり、戦後の一時期、警察は自治警と国警の2つに分かれていたということだ。
当然、仲が悪い。さらに、新城は捜査畑一筋であるのに対し、守屋は左翼摘発が専門の警備部。決して捜査が専門ではない。おまけに中卒の新城に対し、守屋は帝大卒のエリートだ。この2人がなぜかコンビを組んで、連続殺人事件の捜査に取り組む、というのが本書だ。
街を歩けば、旧陸軍砲兵工廠跡を通りかかるし(この地で雨ざらしになっていた金属類を漁る人間たちを描いたのが、開高健著「日本三文オペラ」で、それをデフォルメしたのが小松左京著「日本アパッチ族」だ)、戦争の痕跡がまだ生々しく残る大阪の街がとてもリアルに描かれている。出自も性格も異なる2人がコンビになるというのは「バディーもの」の常套ではあるが、この作者、なかなかにうまい。2019年に西南戦争を描いた「へぼ侍」で松本清張賞を受賞した著者の第2作だが、今回も快調だ。 (文藝春秋 1800円+税)