「アンダードッグス」長浦京著
いきなり、だ。車の前に男が飛び出してきて、えっと思うと、その男の後頭部が爆ぜる。どこからか銃弾が飛んできたのだ。こういうアクションシーンが頻出する。息つく暇なく連続するから、スリリングだ。
物語は、1996年の暮れから翌年2月の春節まで。舞台は、返還直前の香港。イタリア人の大富豪から依頼された仕事は、香港の銀行から運び出される大量のフロッピーディスクと書類を強奪すること。そこには世界各国の要人たちの不正の記録がおさめられているという。依頼されたのは、農林水産省を追われた古葉慶太。格闘の訓練を受けたこともなく、銃をもったこともない素人が、なぜそんな大仕事を依頼されたのか、その事情はもっと後にならないとわからない。
物語には、2018年に古葉瑛美が香港を訪れるくだりが随所に挿入されている。そこでは義父の古葉慶太が14年にマニラのホテル火災で亡くなったことが語られる。彼女が香港を訪れた事情は徐々に明らかになっていくが、このようにいくつもの謎をどんどん積み重ねて、テンポよく物語は進んでいく。
アメリカ、ロシア、中国、イギリスなど、各国の諜報部が入り乱れるという錯綜した背景と、激しいアクションの連続。人物造形も秀逸だから、ホント、目が離せない。すてきなラストまで一気読みの面白さだ。
長浦京のベストだ!
(KADOKAWA 1850円+税)