「口福のレシピ」原田ひ香著
原田ひ香の料理小説には定評がある。「ランチ酒」「まずはこれ食べて」など、いつもおいしそうだ。
本書にもたくさんの料理が登場する。たとえば、タケノコと山盛りの野菜の天ぷらを食べるシーン。コツは、衣に少しマヨネーズを入れること。マヨネーズの油分と卵で、簡単にカリッと揚がるし、味もつくから一石二鳥。野菜の天ぷらにはこれくらいのコクがあったほうがいいという。
この天ぷらを作ったのは留希子。食べたのは風花。料理研究家と、設計会社の内装デザイナー。共同生活をしている仲良しだ。共通しているのは食べるのが大好きであることだ――というわけで、彼女たちの日常が描かれていくことになるが、意外にストーリー色が濃い。
というのも、留希子の実家は料理学校を経営しているのだが、その後継者の座を嫌って、留希子が家を飛び出したという事情がある。親の敷いたレールには乗りたくない、ということだが、料理そのものは好きなのでSNSにたくさんのレシピをあげて、いまや人気ブロガーになっている。
しかし実家との確執は残っているので、いつ波風が立つかわからない。もうひとつは、昭和初期の出来事が、現代編に並行して挿入されること。つまり留希子の実家の歴史を遡るのである。かくて奥行きのあるドラマが展開する。その意味では、異色の料理小説だ。
(小学館 1500円+税)