「コンビニ兄弟」町田そのこ著
「テンダネス門司港こがね村店」という副題の付いた連作集である。このタイトル+副題だけで、だいたいの内容が推測できる、と言われるかもしれない。コンビニを舞台に「さまざまな人間模様」を描く連作集でしょ、と。その通りだ。
しかし問題は、その「さまざまな人間模様」をどう描くのか、ということである。それがいちばん重要だ。驚いたのは、こんなにうまい作家だったのか、ということだ。これまで「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」や「52ヘルツのクジラたち」など、心に残る作品を書いてきた作家だが、まだ一部にぎくしゃくした感じが残っていたことは否定できない。それはブレークする直前の、“きしみ”のようなものであるので、気にはならなかったが、本書のなめらかさを見られたい。
イケメン店長の造形はいささかやりすぎの感が免れないが、その兄(このキャラがいい)をはじめ、個性豊かな人物が次々に立ち現れ、色彩感豊かなドラマが展開するのである。
6編を収録しているが、最初はコンビニ従業員を中心に描き、そこから徐々に「さまざまな客」に移行していくという構成もいい。
女子中学生を描く第3話、老人と少年の交流を描く第4話など、常套的な話と言えなくもないが、それを丁寧に描くことで、胸に残る話に仕立てているのはうまい。
もっと不器用な作家だと思っていたので、まことに意外な一冊である。 (新潮社 670円+税)