「どっちが殺す?」M・J・アーリッジ著 佐田千織訳
とんでもないヒロインの登場である。背が高く、筋肉質で、引き締まったたくましい体をしている。革ジャンをまとい、ヘルメットをかぶってバイクにまたがるカッコいいヒロインだが、同時に自らの体にムチを振るう男を雇い、「もう一度」と要求しては叩かせる。セックスは求めず、求めるのは痛みだけ。
ちなみに40歳手前、独身で恋人なし。ヘレン・グレースは、ハンプシャー警察のできる警部補であるので、部下の男性刑事たちにも慕われている。私生活についてはときどきのSM生活以外はあまり語られないので、ヘンだなと思っていると、ラストでとんでもないことが語られる。おお、それをたっぷりと書きたいが、ネタばらしになるのでぐっと我慢。
事件は奇妙だ。2人組が次々と誘拐されるのである。恋人同士、仕事仲間、親子。監禁し、2人の間には1丁の拳銃が置かれる。銃弾は1発。相手を殺せば解放する、と誘拐犯は言う。水も食料もなし。やがて体力もなくなってくる。生き残るには相手を殺さなければならない。そういう地獄に追い込まれていく。
奇妙なのは、被害者たちに共通項がないことだ。かくて、ヘレンは部下の刑事たちを指揮して捜査を始めていくが、この先は書かないほうがいい。書くことができるのは、物語を貫く熱量が半端ないこと。もう少しおとなしい展開にしないと、シリーズが続かないのではないか。それだけが心配である。 (竹書房 1300円+税)