「二百十番館にようこそ」加納朋子著
就活に失敗した青年がいる。それだけならいくらでも取り戻せるが、青年はやる気を失い、部屋に引きこもってネットゲームをするだけ。しかも何年も。これでは親も怒りだす。
というわけで、離島の館に放り込まれた青年の新たな日常が始まっていく。当座の生活費はもらったものの、それだけでは心もとない。そこで、自分と同じように「親に捨てられた子」を集め、家賃を取れば何とかなると算段。幸いに館は古びてはいるものの、部屋はたくさんあるので心配なし。できればゲームオタクばかりを集めれば、それも楽しいのではないか、とも考える。
このあとの物語の方向は2つ。集まってきた引きこもりが問題児ばかりで、事件が続出すること。あるいは、17人の老人が住む島へ若者たちが入っていくわけだから、地元民との揉め事が頻発すること。どちらもいかにもありそうだ。しかし小説の名手・加納朋子が、そんなに簡単に予想される方向を選ぶわけがない。どちらでもないのだ。
素晴らしいのは、若者たちがけっしてゲームをやめないこと。自分たちを結果的に離島に追い込むことになったゲームから身を引き、いわば「改心する小説」ではないのだ。以前と同じようにゲームに熱中するのである。しかも老人たちと交流し、仲間との絆をつくり、新たな自分を発見するかたちを描いていくのだ。物語の底を流れる謎が最後に明らかになる構成もいい。傑作だ。
(文藝春秋 1500円+税)