「うたの動物記」小池光著
先人たちの詩歌に登場する動物をテーマにしたエッセー集。トップバッターは「馬」。動力機械が登場するまで、馬は最速最高の移動手段で、人類が享受した恩恵は計り知れない。なのに、「馬耳東風」や「馬の骨」など馬にまつわる造語に蔑みの目で見るようなものが多いのはなぜか。
複雑な人間心理に目を向けながら、斎藤茂吉の「税務署へ届けに行かむ道すがら馬に逢ひたりあゝ馬のかほ」を紹介。税金を払うのは義務とはいえ愉快なことではなく、路上の使役の馬の、のほほんとした馬面を見るとさらに不快感が増幅するという心理を歌ったものだという。
ほか、ゴキブリやナメクジなどの嫌われ者からパンダまで、多種多様な生き物たちを歌った詩歌を、その生態や歴史にも触れながら鑑賞する。
(朝日新聞出版 740円+税)